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第2章:品評会「第3話:「食い放題(食い倒れ)観音」
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 宴会は更に続いた。いや、本当は西瓜品評会だったはずだが…。収穫された西瓜は
上座にうやうやしく飾られている。そのそばには、2体の仏像と、一体の仏頭が飾っ
てあった。飾ってあった、というのは、つまり「祀られて」いる様子が皆無だったか
らである。

 「ねぇ。この観音像、お道具は?」

 仏像のうち一体は馬○観音というらしい。別にこの○は伏せ字にしなくてはならな
いわけではなく、持ち主のれいんが「漢字が難しくて読めない」という理由で、伏せ
られているのだ。しかし、それを良いことに「馬糞観音」などという罰当たりなこと
を言ってはいけないのだが…。そういったことも厭わないのが、この連中である。
 さて。もう一方の観音像は、八手を広げて、慈悲深い顔つきで見る者を癒してくれ
ていた。その、観音像にはあるべき筈の仏具類が、全くなかった。

 「引越の時まではあったのよ。でも、どっかにいっちゃったの。もしかすると、主
 人が燃やしたのかも」
 
 まさに、罰当たりな発言だ。しかし、その発言も、これから行われることに比べれ
ば、可愛いものだった…

 その日、猫雑貨作家である千早から、れいんに小さな猫の彫刻が着いた箸が手渡さ
れていた。色はチークとでも言うような、深い木の色である。小さな猫の彫刻は味わ
い深く、また、愛らしかった。
 その箸の色と、くだんの観音像の色をしきりに比べている者がいた。
 テレサである。おもむろに彼女は言った。

 「ねぇ。このお箸、この観音像にぴったりじゃない〜?」

 「ホントホント!ちょっと、持たせてみようよー」

 「そ、そりゃ、まずいよー。罰当たりだよう」

 「平気平気。観音様は慈悲の方だもの。こんな事で仏罰なんか下らないって」

 「色ぴったりだしー」

 そういう会話が交わされた後、テレサは箸を一本、観音像に「本当に」持たせてみ
た。一応、持たせる前には「失礼します」と声を掛けていたが…

 「ほら。色はぴったりねっ!」

 「でも、抜けちゃうんじゃない?」

 「ということで、千早さん。もう少し、太めに作ってね」

 突然振られた千早は「えっ?」という顔をしたまま、固まった。
 その時、誰かが言った。
 
 「この観音様は『食い放題観音』に決定だわ」

 「お箸持った姿なんか、やる気満々ってカンジだもんねー」

 だもんねー、じゃないだろう…。というツッコミは、誰の口からも発せられなかっ
た。
 こうしてれいん家には「食い放題観音」という、有難い仏が祀られることになった
のである。この観音像を拝んでいさえすれば、一生食べ物には困らないであろう。
 …その前に、仏罰が下るかも知れないが。



つづく…
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