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第2章:品評会「第5話:「犬ガム太鼓」
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 どういった経緯でそう言う話になったのか。今では、誰の記憶も定かではないだろ
う。ふと、みょうが変なことを言い出したことは確かである。

 「犬ガムって、太鼓作れるんですよね」

 「え?あの、犬がかむ、あの犬のガム?」

 「そうです。あれで太鼓作ると、けっこうイイ音するんですよぉ」

 みょうは身振りを交えて、犬ガム太鼓の作り方を一同に説明した。おそらく、誰も
まともに説明を聞き、自分で作ってみようなどと考えていなかったに違いない。

 「その太鼓って、犬にとっちゃ大迷惑ねー」
 
 「そうだよね。『今食べようと思ったのにッ』って怒っちゃうかも」

 話はそれで終わるかに思えた。
 しかし、そうはいかないのが、この連中である。
 れいんがリフォームが終わったら、来年の4月にサロンコンサートを開く計画につ
いて話し出した。

 「みなさん、来てくださいね…っていっても、お金取るんだけどぉ」

 とれいんは笑顔で言う。

 「お手伝いの人はチケット代いらないわよー」

 と付け加えると、MILETとしろママが元気に

 「はいはいっ!受付やります」

 と挙手した。この二人、病人の布団もはぎ取って借金返済を迫るクチに違いない。
 その二人をちらりと見やると、テレサがふふんと笑った。

 「じゃ、私はお金払うから、二人をこき使ってやるわ」

 すると、MILETはあっさりと翻り、

 「じゃ、私は出演者ってことでー」

 と、れいんにすり寄った。現金なヤツである。しろママはしろママで
 
 「それじゃ、私はグッズ売って儲けるわ」

 と、ある意味やる気満々ぶりを示した。
 しかし、そこから、話が怪しくなっていく。
 誰かが「カスタネットで出演する」とか「トライアングルで」とか言い出したのだ。

 「じゃ、みょうさんは犬ガム太鼓で私と共演してね」

 MILETはにっこりしながら、みょうに振った。みょうもみょうで

 「西瓜はダメだったけど、犬ガム太鼓は頑張りますよっ!」

 と、こう公言してしまったのである。

 はたしてヨーロッパ(ロココ調)ミラーボールが輝く中、犬ガム太鼓はどんな音色
を奏でてくれるのだろうか。




 
 今回の集まりの目的の一つは、れいんが栽培した「非常に高価な」西瓜を食すこと
だった。どれだけ高価かというと、畑を作るために土を入れ替えており、その土代が
十数万円に登ったというのである。挙げ句には、その畑は今度のリフォームで潰され
ることが決まっている。
 すなわち、今年一回限りの西瓜畑というわけだ。それに十数万円。収穫された十数
個の西瓜は、一つ当たり1万円相当ということになる。
 そのとても高価な西瓜は美味しく食べ終わり、もう一つの目的を果たすことになっ
た。
 それは西瓜女王コンテストに寄せられた、数々の賞品をお披露目することだった。

 テーブルを片づけ、文字通り賞品の山を並べ立てる。参加者全員に、優に配れる、
いや、もしかすると余るほどの賞品だ。
 
 「ねぇ。それで、私はどれ貰って良いの?」

 れいんが目をランランと輝かせて、尋ねた。風千はキッとれいんを見ると…おそら
く、西瓜の恨みもあったに違いない…ぴしゃりと言い放った。

 「今日はお披露目だけっ!上げませんっ!」

 とりあえず、MILETが持参した西瓜女王の冠を参加者と、審査員であるしろママが
頭に載せて記念写真を撮る。
 れいんは何かを狙っていたが、風千の鋭い視線に手を出すことは控えているよう
だ。 しかし、風千が警戒するべきは「貰えるものならなんでも。でも何も見返り
は渡さない」という信条のMILETだ。今日、これから彼女はこの賞品の山を抱えて、
家に帰ることになっているのである。
 果たして、きちんとこの賞品は参加者達に行き渡ることになるのだろうか…。
 審査員長と言う立場を悪用して「各賞に該当者無し」という裏技を発動する懸念が、
ないとは言い切れないのではなかろうか。



つづく…
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